tell me




インフォメーションテクノロジーなんてのはどこの誰が言い出した言葉なのか、ということが知りたくてウィキると、「情報技術(じょうほうぎじゅつ、英: Information Technology、インフォメーション・テクノロジー、略称:IT(アイティー))は、情報処理(コンピュータ処理)および情報伝達(通信処理)の、工学およびその社会的な応用技術の総称。」という言葉が、冷たく羅列された。
要するに今はIT社会で、情報をどうこうするかが俺たちにとっては生死を分ける重要な作業であり、まあつまり情報に踊らされていることは多少否めない。けれども、いつの時代だって、俺たちが本当に欲しい情報というのは変わらない気がする。


長年の片思いに終止符を打つと決心したことをメールで知らせてくれた、小学生からの古い馴染み。
――「今度メールするね」って、いつになったらメールくれんだよ!

努力して努力して努力して、何度目かの司法試験を受けた大学時代の友人。
――もう合格発表終わったよな?山手線でお前の最寄り駅通る度に気になってんだけど!

「海外移住が決まって、携帯も解約するから、住所とか決まったら手紙出すよ」と言った昔の女。
――あれから何年たったと思ってる?


夜は寂しい。まとわりつく孤独を振り切って、自宅マンションについて、郵便受けを覗き込む。空だった。軽く舌打ちして、携帯を開く。着信はなし。メールもなし。センターにまで問い合わせたがやっぱりなし。
「…ITってなんだ?美味ぇのか?」
独り言を鼻で笑い、自宅の鍵を取り出したところで俺の部屋から人の気配がするのに気づいて、そのままノブを回す。カノジョが来ていた。肉じゃがか何かの鍋をかき混ぜながら、
「おかえりー」
返事をするのもめんどくさくて、でも返事をしないことでとやかく言われるのはもっとめんどくさくて、「ん」とだけ言って靴を脱いでビジネスバッグを置き、スーツを脱いでネクタイを解いて、ドッカとソファに腰掛けて、ようやく一息。


人間は雑学――つまり、生きる上でなくてもなんら困らない知識――を、得ることで快感を得られる唯一の動物であるとか言うけれど、俺はもしかしたら、雑学を得ることで得られる快感に対する執着が、特に強いのかもしれない。
知りたい、知りたい、知りたい。あいつも、こいつも、そしてどいつも。教えてくれよ。約束したじゃねえか。教えるつもりがないなら、俺の前にちらつかせるな。お前が生きている限り、俺は、お前から教えてもらうのを、待ち焦がれて、焦らされて、気が狂いそうになるんだ。大人になればなるほど、小さな約束がドンドン増えて、ひとつひとつに構っている余裕が減るけど、ひとつの約束に対する価値はみな平等だと思う。守らなきゃいけない約束、守らなくてもいい約束、なんて、ねえだろ。
雑学と、人間のプロフィールやライフは別のジャンルか、なんて、少し笑いながら、それらを混同してしまう煩雑な自分の思考に苦笑する。―


「そういえばさー、今日、●●駅の某弁護士事務所の前通ったんだけどー」
調理を続けるカノジョの台詞を小耳に挟みつつ、携帯で、小学生からの古い馴染みのブログを開く。新着記事が一件。タイトル『さようなら』。
「そしたら、大学のサークルで一緒だった、司法試験受けた子覚えてる?あの子とばったり会ったんだけど、あそこの事務所で今見習いで働いてるんだって。」
記事の内容。『さようなら、私の大切だった人。ありがとう。あなたのおかげで成長できたよ。だいすきだよ。』明文化の少ない、ぼかした書き方。
「司法試験は落ちちゃったんだけど、バイトしてた弁護士事務所で働きながらリベンジするんだって」
コメント欄のやりとりを覗き込む。Aのコメント。『勇気を出して告白できたことが、すごいことだよ。今は自分を褒めてあげて。』コメント返し。『ありがとう。言葉通り、今は彼をずっと大好きだった自分の気持ちを労うよ。振られたすぐ後に、Aが一緒にいてくれてよかった。いっぱい泣いて迷惑かけてごめんね。』
「すごいよねー。なんか、私の知らないところで世界は回ってるんだって感じ」
全くだぜ、どちくしょう。
俺が本当に欲しい情報は、いつだって、望まない方法で、手に入る。


ずんと重い瞼を薄く開いて、ふと、テーブルに目をやる。手紙の束。カノジョがポストから持ってきてくれたのだろう。
俺は手を伸ばし、確認しながら不要なDMをぽいぽいとゴミバコに入れてゆく。一通の手紙に行き当たった。
海外からの消印に、目を見張る。予感めいたものがあった。乱暴に封を切る。
「……遅ぇーんだよ、ばーか」
ふと笑った顔が、嬉しいものだったか、寂しいものだったかは、自分ではわからなかった。




20110422






私、友人から本当に知りたいことを報告してもらえなくて、いつも他人づてで聞いたり、こっちから聞いたりしちゃうんですよね。
そんでもって今まさになんかいろんなことがそんな感じで「この感情は文字にせねば!」と思って書いてみたわけなんですけどちょっとひどいかもしれないねうん。そのうちこっそり直します。