ピアス 「あれ?」 若い男は、若い女の長い髪を手でよけると、白い耳たぶに輝く銀色のピアスを見つけて、小さく声をあげた。 「ピアス開けたんだ?」 「うん」 「おまえ、ピアス方耳だけじゃなかったっけ?」 今、女の耳には、右に金の、左に銀のピアスが、静かに輝いている。女は頷いた。 「うん」 「なんで?方耳ピアス気に入ってたみたいだったじゃん」 男の疑問に、女は凛とした雪のような声で、 「決意の証」 「…何の?」 男は怪訝そうな顔をして聞くと、女はしれっと、 「秘密」 「そこ、秘密かよ」 男は苦笑した。今度は女が聞いた。 「あんたこそ」 「ん?」 「髪切っても化粧変えても全く気付かないのに、今日は目ざといのね」 「男なんてみんな鈍感、しょせんそんなもんよ。何か求めない方がいいよー。何もくれないから」 「そう。じゃあ諦めとくわ」 「ウソウソ。俺ね、」 男は、新しく耳たぶに穴を開けた女の耳に、そっと囁いた。 「ちゃーんと、お前のこと見てるよ」 息がくすぐったくて、女は少し笑った。温かい。そう、生きている。 「じゃあ私は、安心して変わっていくことにするわ」 「そーしてちょうだい。でも置いてけぼりはやめてねー」 そう。君のことを、ちゃんと誰かが見守ってる。そうして俺は、君に置いていかれないようついて行く。だから君は、ただ前に進めばいい。 20090920 |