a cigarettte & love 1


a cigarettte & love 2




「うわ、泣くなよ。メイク落ちんぞ」
「だって、」
ユウコは、指先で涙を拭った。短くカットされた爪。料理でもするのかなとうっすらと思った。
「絶対フラれると思ってたの。この前あんなひどいこと言って、まだ付き合ってくれるわけないって。元々あたしから告白したし、ポイされたってしょーがないって。笑って別れようって」
「ポイって」
俺は吹き出した。ユウコはカバンからハンカチを取り出した。この子は、こういうところが女の子らしくていい。
「めっちゃ練習したの。セカチュー読んだ後に鏡の前で笑う練習したの。結局上手くできなかったけど、今日は頑張ろうと思ったの。なのに、」
嗚咽混じりに、言った。
「ヒロくん、優しいからぁ…」
優しい。俺を優しいと言った。誰かもそう言っていた。誰だっただろう。そうだ、確か、「誰にでも優しい」と言われたんだ。
俺は、みんなに幸せになってもらいたいだけなんだけど、な。
「優しい、か」
俺は、自嘲気味に笑い、彼女の涙を袖口で拭った。ユウコは犬のように片目をつぶった。俺らの横を通り過ぎた女子学生がチラリと盗み見してきた。
「俺、そんないい人じゃねえよ」
「え?」
「なんでもねえ」
俺は苦笑して言葉を濁した。
「ヒロくん、放課後、暇?」
ユウコが鼻をすすりながら問うてきた。
「暇だけど」
「じゃあ、うちで夕飯食べない?好きなもの作ったげるよ」
「マジ?」
「ほら、せっかく仲直りしたんだしさ、より親睦を深めるアンドお詫びとして手料理振る舞ってあげる」
「…ユウコんち?俺?行っていいの?」
「うん」
涙のせいか、照れのせいか。頬を赤らめてナチュラル上目遣いで恥ずかしげにうなずくユウコ。
か、かわいいじゃねぇか。
俺、人が照れてる仕草に弱いんだよなぁ。
「じゃあ、今夜はご馳走になります」
俺は、ともすれば弛みそうになる頬の筋肉と鼻の下に喝を入れて、大袈裟に頭を下げた。
「あ、そういえば」
とりあえず昼食にしようと、学食に向かう途中、ユウコが話題をふった。
「菅原くん、風邪でもひいてるの?」
「菅原?」
俺は鸚鵡返しに問う。
「飲み会以来会ってないし連絡もとってないからわかんないけど…なんかあったの?」
「うん、菅原くんね、ここ一週間学校来てないんだって」
「ホントに?」
俺は驚き、目を見開いた。ユウコはひとつ頷いて、
「携帯にも繋がらないらしくて。ほら、菅原くんはヒロくんと違って理由もなしに休んだりしないから、みんな心配してて」
「うぐっ!そ、それはそうだけど…アイツは出席率よすぎなの!アイツが、冬でも半袖短パンガキ大将並に学校通ってるの!僕の方が本来の大学生らしいの!」
「はいはい」
「でも、確かにそれは心配だな。アイツ、人のこと無視したりする奴じゃないし…」
飲み会の時、ユウコに肩を貸しながら寂しげにビールをコップで煽っていた彼を思い出す。
「後でちょっとアイツんち寄ってみようか」
俺は、沸き起こる胸騒ぎを『気のせいだ』と自分自身に言い聞かせながら、学生ランチの食券を押した。




a cigarette & love 3