injurer & victim 1




「ねえ菅原くん、飲みに行かない?」
彼女から誘いがあったのは、金曜の放課後だった。
同じ授業を履修しているのだが、お互いに今日は友達がいなかったため、たまたま隣に座った。いつもは一緒に授業を受けるほど馴れ合う関係ではない。ただサークルが同じなくらいで、俺と彼女はそこまで仲がいいわけではない。
それでも、俺は彼女をよく見ていた。
彼女は、綺麗で、目立つから。
俺の沈黙を、断る理由探しと判断したのか、彼女が遠慮がちに聞いてくる。
「あ、今日何か用事ある?バイトとか?」
「いや、特にないけど」
俺は正直に答えた。本当に特に用はなかった。断る理由もない。ただ、何か、何か引っかかっていた。
「じゃあ飲みに行こうよ。いいでしょ?」
彼女の黒髪が揺れる。花のように笑う。白い肌。細い肩。長い指。本当に、綺麗な人だな。
「いいよ」
そう、俺に断る理由なんか、あるはずもない。
ただ、頭の中で鳴り響く鐘の音が、俺に何かを告げようとしていた。
「そう。よかった」
ひとみは、言って再び花のように笑った。




injurer & victim 2