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「ヒロユキぃー」
私鉄からJRに乗り換えるところで、声をかけられた。白々しくため息をついて、
「なんだ、岡部か」
「なんだとはなんだよー。本日は随分とまた社長出勤ですな。もう午後も6時になりますぜ」
吊り革に寄りかかって歯を見せて笑う岡部。
「うるせぇ、昨夜飲み過ぎたんだよ。もう法学の授業は単位諦めた!」
適当に合わせる俺。岡部は一つ頷き、
「ま、飲み過ぎでサボれんのなんか学生だけだもんな〜。昨夜は宅飲み?」
「うん。俺んちで」
「誰と?」
岡部の言葉に、俺はあからさまに気落ちしたオーラを放ちながら、ボソリと、
「……竹村さんと木若さん」
「まじかよ!」
俺の言葉に、一気に血の気が引いた岡部が叫んだ。
「あの伝説の、酒癖の悪さではうちの大学で最悪なんじゃないかというバッファローコンビ!」
彼の言葉通り、竹村さんと木若さんの二人は、うちのサークルどころか大学内でも一、二を争えるほど酒癖が悪いと噂の、今年七年生になる(笑)先輩である。毎日のように後輩の家に転がり込んでは、救急車一歩手前の状態にまで追い込む迷惑極まりない存在である。
おそるおそる詳細を問うてくる岡部。
「…ゆ、昨夜は一体何をさせられたんだ…?」
「『コナンごっこだ』とかわけわかんないこと言いながらジンとウォッカ持ってうちに押し掛けてきた。その時には二人とももうベロンベロンで、明日レポート出さなきゃとか言っても、俺の声は最早もう風の音って感じ。『お口の洗浄だ』とか言いながらジンとウォッカでうがいさせられて、『続・コナンごっこだ』とか言いながら鼻から飲まされたりして、マジで死にそうになって、泣きながら全裸でコナンのパラパラ踊ったらなんとかなった」
「ヒィィィィ!き、聞きしに勝る地獄絵図!しかもネタがコア!コナンのパラパラって言ってわかる人いるの!?」
岡部が、すっとんきょうな声をあげて、ムンクのようなポーズをとった。
「一瞬、花畑と死んだばーちゃんが見えて、次の日のワイドショーで『大学生の矢村ヒロユキさん、先輩に無理矢理アルコールを飲まされ死亡』みたいな放送をしてる妄想を抱いたよ…」
「お、恐ろしい…。この前の飲み会んとき、鼻と耳とに枝豆詰められただけで済んだ俺はマシな方だったんだな…」
岡部が、震えながら言う。俺は電車の吊り革にもたれかかりながら、すっかり暗くなった窓の外次々と後ろに流れてゆくネオンに目を細めた。
「ま、悪い人たちではないからね」
俺の言葉に岡部は頷いて、
「そうだよな。ヒロが酒に関してはかなりザルだって知ってるから飲ませるもんな。下戸には手出さないし」
「俺がMでホントよかったんじゃないかと思う」
「あ、ヒロくん、そーゆーのお好き?」
「…………でもよ、お前、仮にそうだったとしてもよ、全裸でコナンのパラパラ踊りたいか?自分で言うのもなんだけど、相当シュールだったよ、あの場…」
「うん…パラパラは全力で遠慮しときます…」
げっそりとした俺の物言いに、げっそりとした物言いで返す岡部。
「そーいや、」
俺は言った。
「今日の飲み会、誰来んの?」
「えーと、確か…男は俺とお前と、木若さんと、竹村さん、菅原、宇治、西、梶之原で、女の子が、ヒロさん、フミコさん、アキ、ユウコちゃんと……」
やっぱりユウコ来るんだ。さっきのメールを心の中でひっそりとフィードバックする。
岡部は、両手を使って人数を数えながら、最後の一人の名を言った。
「あと珍しく、ひとみも来るって」
岡部の言葉に、俺は自然なリアクションができたか、自信はなかった。




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