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「どう考えたってヒロくんのせいだよ!ユウコがあんな風になるまで飲んじゃうのなんて、あなたのことで悩んでるからに決まってるじゃない!」
形のととのった唇で器用にタバコを挟みながら叫ぶ彼女。
「本当に彼女のこと好きなの?どうして好きでもないなら付き合ったりするの?中途半端な優しさが相手を一番傷つけるって、ヒロくんわかってないよ!」
そこまで言われると、俺としても心外なものがある。俺は負けじと叫んだ。
「お前にそこまで言われたくねえよ!何、そんなに俺の心の中知ってるわけ?心の中でも読めちゃうんですかあなたは!千里眼ですか!」
「読めなくたってわかるよ!あなたはただ優しくしたいだけ。みんなに優しくしたいだけ!だから誰にも優しくしきれなくて、それで相手を傷つけたりするんだよ!」
ぽろりと、彼女の口からタバコが落ちた。赤い線が、空を切って地面に向かう。
「なんで優しくしきれないなら優しくしようとすんの?そんなの逆に迷惑だよ!私は…あなたが『お前のこと考えてる』って言うから…信じてたのに…」
そこで彼女が悲しげに目を伏せた。長く美しい黒髪が、夜風に震えていた。
「なら言わせてもらうけど、」
彼女の言葉尻が弱くなったのをきっかけに、俺は啖呵(たんか)を切った。
「自分の幸せを犠牲にしてその人のことだけ見てるのが優しさなわけ?それって単なる『不幸の共有』じゃん。道連れにしたいだけじゃん」
夜風が頬を叩き、熱を奪ってゆく。俺、酔ってるのかな。でも止まらない。彼女のしぐさにどことなく科(しな)を感じている俺の本能が、理性を超えていた。
「だいたいお前、表面だけ取り繕って人と接してるから、こっちもどこまで踏み込んでいいのかわかんねーよ。ひとみは綺麗で頭もよくて明るくて、およそ欠点ないよ。だからこそ近づきがたい。お前も人と距離置いてるじゃん。自己開示しないくせに心の奥では人に助けてもらいたくってしょうがないんじゃん。そういうのって本人が思っている以上に周りにはバレバレだからね。周りを否定し続けて不幸ごっこを演じて『自分がカワイソウな人間だ』って思い込んでるやつらって何ていうか知ってるか?『自己陶酔者』っつーんだよ」
「…黙って」
「黙んねぇよ。もう一度言うよ。お前はな、単純にかわいそうな自分に酔ってるだけだ。何か不満があるなら、やりたいようにやればいいじゃん。なんでそうしないの?答えは簡単。それをしない自分自身がな、かわいそうだからだよ。我慢して我慢して我慢して、誰にも気づいてもらえない、誰にもわかってもらえない、そんなかわいそうな自分が大好きなんだよ、お前は」
「うるさい」
「いいか、何もかもぶちまけてやりたいようにやったら、お前は『かわいそう』な自分ではなくなっちまう。一見ワガママに見えるかんな、自分のやりたいことを通すのは。でもな、それは全然ワガママなんかじゃねえんだよ。やりたいことやらずにいるのはな、『かわいそう』な自分に酔って甘えてたい奴らが、現実から逃げるための手段なんだよ!」
「うるさいうるさいうるさい」
「『かわいそうな自分に酔ってたっていいでしょ?不満漏らさなきゃいいんだから』ってか?ちゃんちゃらおかしいよな。そんなの無理に決まってんだろ!人間は一人じゃ生きられない。嫌でも他人との関わりが必要だ。そうするとな、見えるんだよ、自然と、その人の心の形がな!お前の心のかたちも、なんとなくだけど、見える。そんなお前見てると、俺は…!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!」
彼女の取り乱した否定の言葉を無視して、俺は、言った。
「自分自身見てるみたいで、辛いんだよ…」




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